DNA

2/3
前へ
/3ページ
次へ
「それは分かったけど、俺が臭いと思われることとどんな関係が?」 「あなた言ったでしょ。いい香りに感じるようにしてくれたらって」 「言ったけど、それが?」 「だから、生き物にとっては遺伝子の多様性が大事なのよ。それを保つためには、遺伝子が近いもの同士の交配を避けて、遠い遺伝子の持ち主と交配するほうがいいの。遺伝子が近い相手を避けるために……」 「そうか。匂いか。近い相手は臭く、遠いほど良く感じる……」 「そう。人間も子供が親のことを臭く感じるのは野生の名残ってことかしらね。ま、人の場合は、近親交配は法的や倫理的にも問題があるけどね」  父親が娘に臭いと思われることはどうしようもないということか。せめて香水でもつけてみようかと思いながら腰を上げ、 「風呂入ってくるわ」  それだけ言い残しリビングを出た。  体調を崩した妻の代わりにアヤを塾まで送ることになった。先に車に乗り込みエンジンをかけて待っていると娘が出てきた。助手席のドアを開け乗り込むなり、「え?」と眉をひそめるのが分かった。  その反応が気にかかるものの、どう話せば良いのか分からず、とりあえず車をスタートさせた。 しばらくすると娘のほうから口を開いた。 「お父さん、香水つけてる?」  横目でちらりとそちらを見てから、 「おう。まあな」 「どうして?急に」  理由を正直に話していいものか迷ったが、二人きりでちゃんと話せることなんてめったにない機会なのだから思い切って打ち明けることにした。 「アヤ。お前最近さ、お父さんのこと避けてるだろ?それ、俺が臭いせいだろうと思って、せめてそれを紛らわせるために……ね」  アヤからは何の応答もない。不安になったので赤信号で止まったのを機に隣を盗み見ると、娘は難しい表情でうつむいていた。気を悪くさせてしまったのかと思い何か取り繕いの言葉を探していると、「ごめんね」と娘がこちらに顔を向けた。 「変に気を使わせちゃってホントごめん。正直に言うけど、お父さんのこと、臭いだなんてぜんぜん思ってないの。逆にすごくいい匂いだって思うくらい。香水つけなくてもね。そのせいかどうかわかんないけど、お父さんのそばにいると、なんだか好きになっちゃいそうで。でも、親子なんだからそういうのはだめかなって思って、意識して近づかないようにしてたの」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加