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私はあなたと一緒にいる気はない。
「離して!」
ようやく絞り出した声はかすれていた。それでもそれを嘲笑うかのように、男は私に体全体を密着させてくる。体全体を覆われ、引き離せないほどに手を強く握られていた。離してなるものか、という強い意志を感じた。
心の中で助けを叫ぶ。
引き込まれる。
連れていかれる。
両目から大量の涙をこぼし、ひたすら拒絶の意を示し続ける。でも相手は離れてくれない。私を抱く力はどんどん強まっている。
もはや恐怖で意識が飛びそうになった途端、その手の上に、もう一つ手が乗った。大きな、骨ばった男性の手だった。
「楽しそうだな。俺も混ぜてもらえるか」
低い低い声がする。あっと思った瞬間、藍沢先生は山中さんの腕を思いきり払った。その拍子に私の手から木箱が落ちる。するとずっと自由が効かなかった体が、やっと動くようになったのだ。
床に倒れこみそうになりながら後ろを振り返る。やはり、先生が白衣を着たままそこに立っていた。そしてその正面に、病衣を着た山中さんが立ち、いら立ちを露わにした顔で先生を睨んでいた。
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