1750人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ残っていた右目が、じっと私を見つめていた。助けを求めているような、恨んでいるような、そんな目だった。生きていた頃の彼とはまるで違うその姿はあまりにショッキングで、私は恐ろしさに涙をこぼすだけ。
私に向かって腕を伸ばす。容赦なく、先生がそれを蹴り上げた。そしてそのまま、山中さんはどんどん溶けるようにして姿を失い、ついには液体になり畳に染み込んでいった。
そのシミも、徐々に消えていく。しばらく見ていると、すぐに元の畳に戻った。嫌な腐敗臭も気が付けば消えており、残ったのは静かなロッカールームだった。
しんと沈黙が流れると、先生が無言で動く。落ちた木箱を手に取り、嫌そうに顔を歪めた。
「へその緒か。んで、ここに巻き付けてあるのは椎名さんの髪?」
「……だと、思い、ます。ゴミがついてるよ、って払ってくれたことは何度かあった気が」
「へえ。凄いことをするもんだ。コツコツ集めてたんだろうなあ」
もはや感心するように言った先生は、こちらを見る。そして、涙を零しながら力なく床に座り込んだ私を見、一つ息を吐くと、ゆっくりそばに寄ってしゃがみ込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!