見てほしいもの

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「言ったろ。関わらない方がいいって」 「……だってまさか、こんなものがあるなんて」 「まあ、思わないよな。泣きたくもなる」 「こわ、か、った」 「そりゃそうだ。怖いよな」  先生はそう言うと、困ったようにポケットを漁る。そして残念そうに言った。 「悪いがハンカチもティッシュも持ってない。持ってる?」 「か、鞄の中に」 「それ使え」  先生は無言で私の荷物を引き寄せて取ってくれた。なんだか、その行為が自分の恐怖心を少し落ち着かせてくれた。私を気遣ってくれたんだ、と伝わって。なんとなく先生の不器用な優しさが伝わった気がして、顔を緩めた。 「ありがとうございます」 「自分の私物使うのになぜ俺にお礼を言うんだ」 「それもそうですね」  ふふ、と小さく笑ってしまった。鞄から取り出したハンドタオルで顔を拭いていると、先生は木箱を眺めながら言った。 「これはちゃんとしたところに持ってって処理してもらった方がいいな。俺は自己流で消しただけだし」 「あの吹きかけてたの何ですか? お清めした水とか!?」 「手指消毒用アルコール」 「え゛?」
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