見てほしいもの

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 それは先ほどの恐怖が残っているからではなく、まさか藍沢先生と連絡先を交換することになるとは思ってもみなかったことだ。だって、あの藍沢先生と? それに、なんだろう、ちょっとだけドキドキしてる。身の危険を感じたせい? いや、何か違う。  私を二度も危機から救ってくれたその姿が、目に焼き付いて離れない。かっこよかったなあ、あんな怖い相手に怯むことなく挑んでた。  あれ、もしかして私。そう自分で気が付いて、慌てて戒めた。 「で、でも先生、女の私の連絡先が入って大丈夫ですか!?」 「別に連絡先ぐらい平気」 「ていうか今更ですけど、こんな狭い部屋に女と二人で」 「君なら平気」  そういわれて、私は顔を持ち上げた。目を見開いたまま、スマホをいじる先生を見つめてしまう。彼は表情を一つも変えることなく続ける。 「車の時は突然だったから驚いたけど、思えば椎名さんはいつも俺に関わらないようにしてたし、ギラギラしてない。それに、君は大分お人よしだっていうのも分かった」  どきりとする。それは確かに、元々は先生を苦手に思ってたから、なるべく寄らないようにしていた。だから大丈夫、ってことか。
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