見てほしいもの

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「しかし、藍沢先生なら挨拶さえもうっとうしいと思うかなあ……」  ごろりと仰向けに寝そべって一人呟く。その拍子に手に持っていたスマホを顔面に落下させ、苦痛の声を上げた。何をやっているんだ自分は。  痛みが生じた額を撫でながら、深いため息をついた。  苦手だと思っていた先生はいい人だった。愛想はないし笑わないけど、私をちゃんと守ってくれたし、霊を消してるときはかっこよかった。  ああ、かっこよかったよ、くそ。あんなん、普通の女ならコロリだろうが! 「とりあえず挨拶だけは送ろう! 返信はこないだろうけど、社会人としてね!」  そう意気込んだ自分は起き上がる。そして、スマホに集中して文章を打ち込んだ。出来るだけ簡潔に、短く、うっとうしくないように。何度か打ち込んでは消し、打ち込んでは消しを繰り返した挙句、完成したのはこんな文章だ。 『椎名です。今日は本当にありがとうございました。今後は気をつけます』  本当に三十分かけて考えた文章か? と問いたいぐらいの文章。でも、藍沢先生相手ならふさわしいと思えた。送るならこれぐらいでいい、多分返信は来ない。
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