悲しい最期

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   病院とは、生と死が交わう、不思議な場所だと思っている。  病気を治して生に向かって生きていく人間がいたと思えば、その隣の部屋にはもう完治する見込みがなく、家族に看取られながら亡くなる人がいる。たった一枚の壁を隔てて、生と死が存在している。  そんな場所で働いていると、すぐには解決できないジレンマや、耐えられない辛さも経験する。心が折れて立ち直れない日もある。いつになったら慣れるんだろう、とぼんやり思うこともしばしばだ。  だが、慣れなくてもいいとも思う。これに慣れて何も感じなくなってしまった時、自分は人としての大事なものを失う気がするからだ。  強くなりたいとは思っても、何も感じなくなりたいとは思わない。この仕事をしている上で、人間らしさは最も必要だと思うから。 「おはようございまーす」  挨拶をしてナースステーションに入る。規則的な心電図の音、朝食の匂い、看護師の足音。どれも見慣れた景色だ。  私は荷物を置くと早速パソコン前に座る。今日の受け持ち患者の情報収集だ。カルテを読み、今現在どういう状態なのか情報共有をすることは、とても重要だ。
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