悲しい最期

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 次第に仲間の人数が増え、中もにぎやかになってくる。時刻になると朝の申し送りが始まり、そこから検温に回る。  自分の中で心配事があった。元々は患者だった山中さんとあんなことがあって、普通に働けるか、という問題だ。トラウマになり患者と接することができなくなったら、なんて大げさに考えていた。  だがそんなのはいらぬ心配だった。どうも、自分は結構柔軟性がある。彼は彼、この人はこの人。あんなのは稀ちゅうの稀で、他の患者さん殆どは、変な感情も持たずに必死に治療をしている人たちばかりだ。私はそれをよく知っていた。  だから、仕事も普段通りこなせている。言い方を変えると図太く、小さいことは気にしない気質。こんな自分でよかった、と思った。 「椎名さーん、これ薬届いたからー」  ステーションに戻ると、そう声を掛けられた。返事を返し、とりあえずカルテの記録を少し進めようと腰かける。開いてる時間に進めておかないとね。キーボードを必死に叩いて行く。  すると隣のパソコンに、誰かが腰かけた。どきんと胸が鳴る。相変わらず無表情な顔が横目に入り、変に意識してしまった。
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