悲しい最期

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 でもそんなそぶりも見せず、ひたすら記録に集中する。先生とは別に仲良しになったわけじゃない。連絡先は交換したけど、緊急の時以外使ってはいけないものだ。  唸りながらメモを見返していると、かすかな声が隣から響いた。 「あれは、もう処理し終わった」 「……あ」  言われて気が付く。だが周りに人もいるので、私は先生の方を見ないようにしながら、小声で返事をした。 「ありがとうございます」  それに対して返事は来なかった。私たちは何事もなかったようにお互いパソコンにかじりつき、仕事に集中していく。  山中さんが残した、あれのことだろう。口に出すのも恐ろしい。先生が処理しておいてくれると言ってくれていたのだ。  とりあえず胸を撫でおろした。先生が消してくれたおかげで、もう彼はいなくなっている。もう終わったと思ってはいたが、これでさらに安心が増すことになる。嫌な思い出は消えることはないが、自分の安全は確保できたというわけだ。  私はキーボードを打ち込みながら、わずかな距離にいる先生に対して少しだけ胸を鳴らしていた。でも、分かっていたことだが関係性は何も変わらない。
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