悲しい最期

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(どっちが正しいなんて、きっと第三者が決められることじゃないんだよなあ)  予後のことを知ってしまい絶望するくらいなら、最期まで希望を抱いたままでいてほしい。  予後のことをちゃんと知って最期までにしたいことをしてほしい。  どちらも家族が考え抜いた挙句出した答えだ。  私が学生の頃、実習で病院に行った際、忘れられない場面を見たことがある。  それは未告知だった高齢の女性がある日亡くなった。学生だった自分は何かを出来るわけもなく、ただ病室の外で、初めて目の当たりにする人の死に落ち込んでいた時だ。  廊下に、そのおばあちゃんが立っていた。  自分が死んだということを、今初めて知った、という顔をしていた。そして、しばらく呆然した後、一人で泣いていた。 『そうだったんか……みんなで隠してくれとったんか……辛い思いさせてごめんなあ。おかげで、私は最後まで楽しく過ごせたよ』  両手を合わせて家族に拝んだその人は、暫くしてから消えた。穏やかな顔をしている気がした。
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