悲しい最期

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 二人はステーションから出、すぐそばにあった森さんの病室に入っていった。私は手を動かしながら、奥さんと娘さんがそばにいられてよかった、と心で思う。  やはり、大事な家族がそばにいて最期を看取ってくれた、というのは、大切なことではないだろうか。本人には意識がないんだから分からない、なんて、野暮な答えだと思う。見送る方も見送られる方も、絶対一緒がいいに決まってる。  ああ、奥さん、看病や病状を隠すことに凄く疲れてたみたいだった。それだけ大事に思ったんだよなあ。娘さんもわざわざ仕事を休んで付き添ってて……理想的な家族だなあ。  そんなことを考えつつ、作業を終えた。さて自分の患者の元へ行こうかと、ステーションから足を踏み出した時だ。  あの部屋の正面に、森さんが立っていた。  ぽかん、とした顔で、病室を見つめている。その光景に、既視感を覚えた。自分が死んでしまったことに気づき、驚いている様。  私は無言で通り過ぎようとしたとき、病室から先生と娘さんが出てきた。そして、涙声で娘さんが言う。 「先生、ありがとうございました」 「いいえ。お父様よく頑張っていました」
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