悲しい最期

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 無論、娘さんはその質問に答えることなどなく、ただ泣いて穏やかに先生に言葉を送っている。その正面に立つ先生は、眉一つ動かすことなく、娘さんの話を聞いていた。  森さんは先生に詰め寄る。 『医者なのに、俺に隠し事してたんか。なぜそうした! こんなことになると分かっていたなら、俺はもっと……もっと……この馬鹿! 本当のことを話しましょうと、なぜ妻に言わなかった!』  怒りとも悲しみとも取れる怒号に、私はつい背を向けた。そしてナースステーションに戻り、少し乱れてしまった息を整える。  まさかあんなふうに思うなんて。  分かり切っていることだが、先生や我々医療者に非はない。治療も何もかも、結局最後は本人かもしくは家族が決めることだから。だが、間近であれほど怒りをぶつけられて、聞こえないフリをしている先生が素直に凄いと思った。  いつだったか見たおばあちゃんの時とはまるで違う解釈。そうか、そんなふうに思うこともあるのか……確かに分からなくもないけど、でもあまりに辛い。何が正解か分からない中、みんな必死に進んできた。だれが悪いわけではない。
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