悲しい最期

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 先生、大丈夫だろうか。私だったら、あんなふうに患者に責められたら立ち直れない。 「ひなの? どうした?」  同期の歩美が不思議そうに顔を覗き込んできた。私は点滴を手に持ったまま、呆然としていたのだ。必死に笑顔を作って答える。 「いや、森さんの娘さんの様子が見えて、なんかもらい泣きしそうで」 「あそこね~奥さんも娘さんも頑張ってたよねえ。未告知だったからさ」 「最後まで未告知のままだったね」 「だねえ。うちらもちょっと緊張しちゃうよね、口を滑らせたらまずいしさ。あとほら、久保さんのとこも」  歩美が言ったところで思い出す。今現在、うちの病棟にもう一人、似た状況の患者がいることを。  久保誠也。今現在うちで入院している患者の中で一番若い、二十九歳の男性だ。彼も胃がんの終末期で、でもそれは本人には未告知である。  彼は若いだけではなく、まだ二歳になる前の子供もいるという状況があまりに酷だった。奥さんは一人で子供の面倒を見、その小さな手を引いてお見舞いにやってくる。その姿は健気で涙を誘う。
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