悲しい最期

14/46
前へ
/273ページ
次へ
 久保さんは入院した当初、明るく爽やかなイケメンだった。病室に持ち込んだパソコンでゲームをしたり、少し仕事をしたりして過ごしていた。だが残酷なことに、若いと進行も早い。どんどん悪化する痛みや吐き気に寝ている日が多く、それを緩和するために薬剤を使っている日々だ。彼のノートパソコンはもう、開かれることはない。  この奥さんは今でも、告知すべきか迷っているそう。すべて知らせて、例えば緩和ケア病棟に移動することも出来る。だが結局このまま来ているのが現状だ。久保さんには両親がいないらしく、奥さんだけが頼れる人だった。家に帰れないか、という話もあったそうだが、小さなお子さんがいることや、本人も症状が重くて薬剤なしでは動けない状態であることから、実現できずにいる。  痛み止めの麻薬、吐き気止めの点滴、それらをたくさん繋げて、病室で苦痛に耐えている。  私はぼうっと考える。医療には限界があるもので、救えない命は残念ながら多くある。残された時間をどう過ごすか、というのは、大きな問題すぎて想像もできない。  廊下からはまだ森さんの悲痛な声が聞こえていた。私はそれを振り払うように顔を背け、反対側の廊下を通ってその場から離れた。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1752人が本棚に入れています
本棚に追加