悲しい最期

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 それから仕事をこなしていくうえで、廊下の様子が横目に移る。静かになった森さんは、首をがくっと垂らして無言で立っていた。悲しみの気がこちらにまで漂ってきそうで辛かったが、視えないフリを徹底した。  彼はしばらくその場に留まっていたが、気が付いたときにはいなくなっていた。家族に付いて病院からいなくなったのかもしれない。  とりあえず病棟からいなくなったことに対してはほっとしたものの、心の中に残った複雑な痛みは消えることはなかった。 「ううん、どうしたものか。いや、うざがられるよなあ。絶対そうだよなあ」  私は帰り道、一人で悩んでいた。    時刻は夕方十九時すぎ。日勤の仕事をようやく終えて着替え、外に出てきたわけだ。外はもう暗くなっている。正面玄関を通り過ぎ、自宅に向かって病院の敷地内をゆっくり歩いていた。手にスマホを持って。  病院の外はめっきり人も車も少なくなり静かだった。病院の周りにいくつもある駐車場も、昼間に比べると停まっている車はずっと少なくなっている。闇の中を照らす照明に蛾が集中し、嫌な音を奏でている。
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