悲しい最期

16/46
前へ
/273ページ
次へ
 私が先ほどから悩んでいるのは、今日見たあの光景について、藍沢先生に連絡してみようか、ということだ。  先生は霊が視える。だから、あの森さんの罵倒も近くでずっと聞いていただろう。私ですら胸が苦しくなったのに、本人は大丈夫なんだろうか。ラインで一言、気にしなくていいと思いますよ、ぐらい送ってみようか。 「って、こんな新米看護師から言われてもねえ……」  がくりと頭を下げた。しかも相手はあの藍沢先生だ。私なんかに励まされなくたって、まず落ち込んでなんかないだろう、と、思う。経験だってずっと上なんだから。  唸りながら考え込む。するとその時、左手の道から誰かが出てきた。考え事に夢中になっていた自分は反応するのが遅くなり、そのまま強めにぶつかってしまった。 「あ! すみません!」  慌てて謝る。しかし顔を上げたとき、驚きで思いきりのけぞってしまった。  暗闇に溶けてしまいそうな黒髪と、やっぱり黒い服。藍沢先生がそこに立っていたのだ。 「せ……!」 「歩きスマホは感心しない」  私が右手に持っているスマホをちらりとだけ見ると、そう短く言った。私はすぐに弁解する。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1752人が本棚に入れています
本棚に追加