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私が先ほどから悩んでいるのは、今日見たあの光景について、藍沢先生に連絡してみようか、ということだ。
先生は霊が視える。だから、あの森さんの罵倒も近くでずっと聞いていただろう。私ですら胸が苦しくなったのに、本人は大丈夫なんだろうか。ラインで一言、気にしなくていいと思いますよ、ぐらい送ってみようか。
「って、こんな新米看護師から言われてもねえ……」
がくりと頭を下げた。しかも相手はあの藍沢先生だ。私なんかに励まされなくたって、まず落ち込んでなんかないだろう、と、思う。経験だってずっと上なんだから。
唸りながら考え込む。するとその時、左手の道から誰かが出てきた。考え事に夢中になっていた自分は反応するのが遅くなり、そのまま強めにぶつかってしまった。
「あ! すみません!」
慌てて謝る。しかし顔を上げたとき、驚きで思いきりのけぞってしまった。
暗闇に溶けてしまいそうな黒髪と、やっぱり黒い服。藍沢先生がそこに立っていたのだ。
「せ……!」
「歩きスマホは感心しない」
私が右手に持っているスマホをちらりとだけ見ると、そう短く言った。私はすぐに弁解する。
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