悲しい最期

17/46
前へ
/273ページ
次へ
「ち、違います、スマホは見てませんでした! ただちょっと考え事をしていて。てゆうか先生はここで何を」 「あっち、駐車場」 「あ、ああ……」  スタッフ用の駐車場はいくつか点在しているが、結構病院から遠い場所にある。しばらく歩かないとたどり着かないのだ。先生の駐車場も少し向こうにあるらしい。  まさか考えていた相手と急に会うことになるなんて、予想外のことすぎて心の準備ができていない。私は一人モタモタと困っていると、それを気にせず彼は歩き出してしまう。慌ててそれを呼び止めた。 「せ、先生!」  ぴたりと足を止め、ゆっくり振り返る。やはり笑顔のないその顔をもう怖いと思うことはなかった。むしろ、少し心臓が速まっている。 「何」 「あの、聞いてましたよね、森さんの……」  一応周りに人がいないか見渡しながら小声で尋ねた。大丈夫、人はいない。先生もゆっくり周囲を見ながら答えた。 「ああ……それが考え事の内容?」 「あ、あの、あんな風にあの人が考えているなんて思わなくて」 「君はまだ入って間もなかったね。そりゃ驚くか」
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1752人が本棚に入れています
本棚に追加