悲しい最期

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「君にはまだまだキツイ場面だろうが、そのうち慣れるよ。慣れなきゃやっていけない、自分が壊れるだけだ」  きっぱり言い切ったその言葉に、どこか含みを感じた。私は何か尋ねようとしたが、先生はくるりと向こうを向いてしまう。 「じゃ。心配どうもありがとう。お疲れ」  早口にそういうと、さっさと歩いて行ってしまった。愛想がないし口数も多くない。でもやっぱり、ちゃんとお礼だけは言うんだなあ。  ぼんやりとその後ろ姿を見送り、先生にちゃんと話が出来たことを心の中で喜んだ。そして同時に、やるせない思いも心の中に広がっていく。  慣れるしかないのか。慣れるしか……向こうも悪気はない、むしろ一番辛いのはあっちなんだもんなあ。  頭を小さく掻いた。そして手に持っていたスマホをポケットにしまうと、帰宅するために道を歩き出した。  休みを挟んで仕事へ向かう。いつも通りの動きで働き汗水垂らしている午後二時、廊下を足早に歩いていると、一つの病室から誰かが出てきた。ちょうど目の前に見えたその顔は、横顔からでも疲労感がたっぷり感じられた。  あっ、と思う。久保さんの奥さんだった。
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