悲しい最期

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 右手に子供を抱え、パンパンに膨れたリュックと紙袋も持っている。子供と移動するための荷物と、夫である久保さんへの差し入れだろう、と安易に想像できた。    奥さんは小柄で、細くて可愛らしい人だ。華奢なその腕で、あまりに多くの荷物を抱えており、その姿だけで泣きそうになった。そして目には見えない重圧を、心でさらに抱えているのだ。  余命わずかと聞かされている夫。日々痛みで苦しむ夫。  一番手がかかる時期の息子。今後夫が亡くなった後、二人きりで生きていかねばならない。 「大丈夫ですか?」  私はつい、声を掛けてしまった。ハッとした顔で奥さんが顔を上げる。目の下にあるクマは、コンシーラーで隠しきれていなかった。私は表情を柔らかく保ち、再度言った。 「久保さん、大丈夫ですか?」  私の言葉を聞き、彼女はどこかホッとしたような顔になった。張りつめていた気が抜けたのかもしれない。私はそばに寄り、まずは彼女が抱いている子の顔を覗き込んだ。  久保さん夫妻によく似ている男の子だった。きょとん、とした顔でこちらを見ている。可愛らしくてつい微笑んだ。 「似てますね」 「よく言われます」
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