悲しい最期

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「可愛い。こんにちは」  私が挨拶をすると、てっきり恥ずかしがるかと思いきや、彼はにっこり笑った。天使とも呼べるほどのそれに、私は反射的に高い声を漏らしてしまった。楽しそうに笑う彼は、小さな手を私に伸ばしてくる。 「わ、わ、可愛い!」 「あ、こら健人」 「え? 抱っこくるの?」   健人くんは私の方に身を乗り出してくる。私は慌てて両手を消毒し、彼をすぐに抱きかかえた。思ったより重い、小さくてもこんなに体重があるんだなと唸った。この子を抱っこして病院まで来ている奥さん、本当に大変だろうな。 「すみません! 忙しいのに」 「人見知りしないんですね~する時期かと思ったけど」 「あまりしなくて……」 「せっかくだから、時間があれば久保さん、座ってお茶でも飲んだらどうですか? 私健太くん抱っこしてますし」 「え、でも」 「近くの自動販売機ぐらいですけど。よければ」  私が提案すると、奥さんはぐっと言葉を詰まらせた。そして、異常なほどに何度もお礼を言う。その光景が、きっと一人でゆっくり出来る時間もあまりないんだ、と教えてくれる。
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