悲しい最期

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 二人で近くの談話室まで行き、奥さんは温かい紅茶を購入した。健太くんは私の腕の中でおとなしくきゃっきゃっと笑っている。そのままテーブルに腰かけ、奥さんはそっと紅茶を啜った。 「紅茶、好きなんですけど、最近全然飲んでなくて……」  ぽつりと彼女は言った。 「飲む余裕もないですよね」 「……夫も、日に日に別人みたいになって。痩せこけて、痛みが強いときは会話なんてままならないし、それで薬増やしてもらったら今度は寝てるしで。まあ、痛がってるより寝てる方がほっとするんですけどね。でも行ってもほとんど会話も出来ず、しようとしても健人がタイミング悪く騒いだりで、なかなか」 「どこかへ預けたりは?」  小さく首を振る。 「親とは不仲で……あとは一時保育はたまに使うんですけど、使った後絶対熱出すんです。看病の方が大変になっちゃって、夫にも会いに来れなくなるし。最近は使ってません」  私は腕の中の健人君を見た。私の白衣の襟を触って遊んでいる。子供を持っていない自分には、子育ての大変は理解しきれないだろう。でも、想像を絶する大変さだということは分かる。
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