悲しい最期

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 先日見たばかりの、森さんの光景が目に浮かぶ。森さんはなぜ黙っていたんだ、と怒号を浴びせていた。  でも、あれは森さんの場合だ。  人それぞれ考え方は違う。何が正解なのかは分からない。 「久保さん、何が正解なのかは誰にもわかりません。ただ、久保さんが凄く家族を思っていて、頑張っているのはみんな知っています。それはご主人にも伝わってるんじゃないでしょうか」  私の言葉に、奥さんは次々涙を零した。それを、健人君が不思議そうに見ている。 「健人が大きくなったら、って話をよくするんです。見せてあげたい。健人が大人になるまでいてほしい。  どうしてこんな病気になってしまったんだろう。どうしてあの人だったんだろう……」  嗚咽と共に漏れる疑問は、到底答えられるものではない、悲しい声だった。  半分以上残ったままの紅茶は冷め、飲んだ分だけ涙を零したように見えた。  胸が痛くてたまらなく、こちらも泣いてしまいそうになったのを必死にこらえる。  やるせない、という言葉は、この状態のために存在しているのかと思った。
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