悲しい最期

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 それから数日経った頃、久保さんの状態は誰が見ても明らかなほど悪くなっていた。  投薬している薬の効果のおかげもあり、本人はずっと眠っているままだった。奥さんは可能な限り久保さんに付き添い、ほとんど眠っていない様子だ。健人君は、最期まで家族三人でいたいから、という理由で、どこかに預けることもなく病院へ連れてきていた。  一度、心電図モニターの接触を確認しに訪室した際、久保さんの手を健人くんが不思議そうな顔をして握っていて、それを見ただけで私は唇を震わせた。まだ死というものを理解していない子が、もう父と会えなくなるなんて、知るはずもない。なぜお父さんはずっと寝てるんだろう、そんなことを思っているのかも。  そして私が日勤で出勤してきた朝、久保さんの心拍を表すモニターの波は、平坦になった。  ステーション内も、みんな言葉には出さないが、悲痛な面持ちで働いていた。患者が亡くなることは珍しいことではないが、やはり二十代という若さや、小さなお子さんを残していることはみんな知っているので、胸が痛まないわけがなかった。
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