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その声に、涙声が返ってくる。奥さんだ。
「ありがとうございます。でも、最期は三人でいます」
緑川さんは頭を下げ、扉を閉めた。それがぴたりと閉じた瞬間、黙っていた久保さんの声が響いた。
『最期?』
無論、緑川さんは気づかない。そのままこちらを向き、ステーションに歩いてくる。そしてそんな彼女を必死に追いながら、久保さんが悲痛な声を上げた。
『俺死んだんですか? どうして? 俺死んだんですか!』
纏わりつくように何度も尋ねる。視線を外せなかった自分も、はっとして顔をそむけた。ステーション近くになり、久保さんがこちらを向いたからだ。
緑川さんが中に入り、すぐに記録を打ち込んでいる。そこへ、ずかずかと久保さんは中まで入ってきてしまった。私は必死に視線を落とし、彼と目が合わないように努めた。
『誰か聞こえませんか? なんで俺死んだんですか! 何があったんですか!』
ステーション内にいる看護師一人一人に、大きな声で尋ねていく。私は震える手で、意味もなくパソコン内のカルテを読むふりをする。
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