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誰も答えないのだと気づいた彼は、病室に戻ろうと思ったのか背を向けた。しかしそこで、緑川さんと歩美が話し始める。
「大変でしたねえ、久保さん」
「ね。でも奥さん頑張ってたよねえ」
「息子くん連れてお見舞いに来て、痩せちゃってましたよねえ」
「未告知だっていうのも、心で葛藤があったみたいだしね。久保さんの場合、見つかった時すでにかなり進行してたから、余命も短かったし言いにくかったよね」
久保さんが振り返る。目を真ん丸にして、呆然と呟いた。
『未告知……? じゃあ、妻は、美和は知ってた?』
そこまで知った彼は、すぐさまステーションから飛び出した。私は何もできず、横目でその姿を見送った。
驚いていた、久保さん。そりゃそうだ、まず来るのは驚き。自分が死んだことに、驚愕するのだ。
では次は? 怒りか、悲しみか。奥さんに対しては、何を思う?
胸が痛いほどに締め付けられた。どうか、奥さんの苦しみも分かってあげてほしい、と思うのは強欲だろうか。
いくら視えない、聞こえないとはいえども、奥さんを責めるようなことだけは、言わないでほしい。
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