悲しい最期

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   けれどその後、一体久保さんが奥さんにどう声を掛けたのか、私は知ることはできなかった。  私は受け持ちではないので、病室に入ることはなかったし、彼の姿はそのまま見なくなった。恐らく、家族と共に病院を出たのではないか。森さんの時もそうだった。  そして、きっと私はもう二度と、あの家族に会うことはないのだ。奥さんは健人くんを連れて大変だろうけど、どうか頑張ってほしい。心で祈るしか出来なかった。  ところが三日後のこと。  その日は日勤であくびをしながら病棟にたどり着いた私は、ナースコール前に立つ人影を見て、残っていた眠気が吹き飛んでいった。  病衣を着た状態の久保さんが、一人怖い顔をして立っていたのだ。  私は目をちかちかさせた。だって、一旦病院からいなくなったというのに、わざわざ戻ってきたということではないか。ああ、そうか、亡くなった翌日通夜、葬儀とあって、すべて終わったから帰って来たのか。  いや、なぜ病院に? 奥さんや健人君を見守るのが普通ではないか。こんなところに戻って気も出来ることはないし、いい思い出がある場所でもないだろうに。
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