悲しい最期

31/46
前へ
/273ページ
次へ
 混乱で慌てふためいていると、視線を感じた。そちらを見ると、ステーション内で座っている藍沢先生だった。彼は私に念を押すようにじっと視線を送っている。霊と関わるな、だ。  その威圧感にびしっと背筋を伸ばす。そして何も見なかったように、笑顔で挨拶をしながら入った。 「おはようございまーす」  声は少しだけ不自然だった。でも許容範囲内だろう、私は久保さんの方は一切見ないようにし、鞄を置くと受け持ち表を確認する。だが視界の隅で、じっとりとした目でこちらを見ている久保さんの姿を捉えた。  心臓がバクバクとうるさくなる。  一体彼がなぜここにいるのか。わざわざ家族の元を離れ戻ってきた理由は。時間が経てばいなくなってくれるだろうか。  必死に平然を装いながらカルテを閲覧し始める。少しして歩美も出勤し、あっけらかんとした顔で挨拶してきた。私もそれを返し、ああやっぱり視えないって羨ましい、と思ってしまった。  時間が経つとメンバーもさらに集まり、申し送りが始まる。それまで、ずっと彼は微動だにしないまま、死者の目で私たちを見ていた。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1752人が本棚に入れています
本棚に追加