悲しい最期

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 なるべくステーションには戻らないように病棟内を走り回っていた。  患者の検温やケアの介助にひたすら精を出し、今朝のことを忘れるように必死になった。それでも、仕事はカルテの記録などパソコンを使うものはステーションでなくては出来ない。やるべきことが一通り終わってしまったところで、私は渋々あの場所に戻った。記録を終えたらまたすぐに出よう、と心に決めて。  もしかしたら、誰にも視えないと絶望し、移動しているかもしれない。そんな淡い期待を抱きつつ戻ってみると、すぐに砕かれた。彼はナースコール前に立ったままだったのだ。朝と全く同じ格好。  げんなりした。やっぱり、さっさと出よう。  そう決意し、一番遠くのパソコンを開いて素早くキーボードを叩く。ステーション内には、私と同僚二人、それから医師が二人いるだけだった。あとはみんな出払っているらしい。  とにかく集中して記録を書いていると、男性の声がこちらに飛んできた。 「すみませーん」
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