悲しい最期

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 顔を上げると、面会者のようだった。動こうとするより先に、同僚が対応してくれる。私は入力に戻り、聞き耳だけ立てていた。どうやら、知り合いの病室の番号を尋ねているようだ。面会名簿への記入もしている。  そのまま指を動かしていると、また看護師を呼ぶ声がした。顔を上げる。今度は病衣を着た老人がこちらに声を掛けている。また私より近くにいた同僚が動き、対応をしてくれる。お風呂に入りたいので予約を取りたい、との相談のようだ。私は再び視線を落とした。  しかしすぐに、低い声が聞こえてきたのだ。 「すみませーん」  今ステーション内にいる看護師で手が空いているのは私だけだ。次は自分が対応せねば、と思い声の方を見た。  同僚二人の後ろ姿が見える。いまだ対応中のようだ。そのカウンターの向こうを見てみるも、誰も見当たらない。  あれ? 今、呼ばれた気がしたんだけど。  首を傾げつつ作業に戻る。だがすぐに、また自分を呼ぶ声がしたのだ。 「すみませーん! 看護師さん?」  聞き間違いなどではなさそうだ。私は反射的に返事を返した。 「あ、はい!」
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