悲しい最期

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 そう言った矢先、不思議そうにこちらを振り返る医師の顔が見え、私はハッとした。  カウンターにはやはり、誰も来ていない。看護師を呼ぶ患者の姿など、一人も見えない。 (……まさか)  ゆっくりと首を回す。ナースコールの前に立つあの人は、首を異様なほど回し、目を爛々と輝かせ、満面の笑みで私を見ている。 「看護師さーん。みえてますね?」  飛びあがり、まだ入力途中の記録を保存することもなくその場から離れた。廊下に出て、目的もなく早足で歩き出す。自分の心臓は大きく暴れ、危機感を感じていた。  返事をしてしまった。私しか聞こえていなかった。しかも、目も合ってしまった! 完全にバレてしまっただろう。  どうしよう、どうしよう。あんなに気を付けていたのに。でもだって、呼ばれたらすぐに反応する、それは看護師として仕方のないことだ。一日に何回、何十回と患者に呼ばれる。いちいち、誰が生きてる人間で死んでる人間かなんて、確かめる暇はないのだ。
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