悲しい最期

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 家に帰って荷物を投げ捨てた後、私はすぐに先生にラインを送った。文面を迷っている余裕すらなかった。とにかく今の現状を誰かに相談したい。恋だとかそういう感情は吹っ飛んで、そう思っていた。  くたくたになった体を、そのまま床に寝そべらせた。ああ、疲れた。体がというより、精神がだ。久保さんの嬉しそうな笑顔が忘れられない。目を見開いて口を大きく横に開き、生前とは違う表情をしていた。  ふと、前の久保さんを思い出す。入院してきた当初は、笑顔が可愛い人だった。いわゆるイケメンな人で、でも健人くんの前ではお父さんの顔になるのが、私は素敵だと思っていた。  自分の余命を知らない中、痛みや吐き気と必死に闘っていた。目に見えて悪化していて、時々本人も『悪いものじゃないんですか?』と疑問を持つこともあったようだ。でも、私たちは口を滑らせてはいけない。彼に真実を教える人は、誰もいなかった。  でもそのおかげで、久保さんは最後まで生きるという希望を捨てずに頑張っていたとも思う。辛くても健人くんに話しかけ、手を握っていた。痛みに顔を歪めながらも、何とか笑顔でいようと努めていた。 ……立派な人だった。
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