悲しい最期

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 そりゃそうだ、彼が雑談などをするはずがない。私は聞かれたまま朝からのことを説明した。申し送りの時一人一人至近距離で視えるか尋ねられたこと。それには耐えていたものの、仕事中患者のような声で呼ばれてつい反応してしまったこと。家に付いてくることはなかったが、それ以降仕事中は私を見て嬉しそうに笑っていたこと。  すべて説明し終えると、先生もさすがに哀れんだ声を出した。 『なるほど。まあ仕事中看護師さん、なんて大声で呼ばれれば反応してしまうのは仕方ない。今回はしょうがないと言えるな。相手も知恵が働くというか』 「今日は何とか無事終えられたけど、これからどうしようと思って……」  項垂れて不安を吐露した。明日からも仕事は続く。久保さんがいたのでは落ち着いて仕事ができやしない。  少し考えるようにして先生が口を開く。 『椎名さん今度夜勤いつ?』 「え? えっと、来週の水曜からです」 『そこしかないかな。君の休憩時間らへんに行くから、誰も見ていないところで消すようにやってみる』 「ほんとですか!」
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