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白い扉をノックする。中から低い男性の声が聞こえてきた。私は扉を開ける。
「おはようございます! 今日の受け持ちの椎名です。よろしくお願いします」
私が顔を出すと、ベッドに座っていた男性はにこりと笑った。灰色の短髪、瘦せ型で身長も小柄なその人は、山中浩一さんという人だ。私は笑顔で中に入る。
「今日も椎名さんだったか。よかった、椎名さんで。いい一日になりそう」
「お上手ですね」
「いやいやほんと、優しいし見てて元気が出てくるよ」
そう目を細めて言ってくれるので、私も笑顔を返した。年齢は確か六十歳、独身。
末期の食道癌が見つかり、つい先日入院してきた人だった。ほかにも転移が認められており、完治を目指す……というよりは、進行を遅らせるための化学療法になる方向だ。本人には告知済み。だが、まるで嘆く様子もなく、いつも笑顔で優しく接してくれるので、私としても話しやすい患者だった。
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