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とことん無視を貫いた。そう、これだ、視えないフリをして私はこれまでの人生やってきたんだ。最近特殊な霊に出会って忘れていた。平穏に暮らす一番の方法だったのに。
しばらくそのままだったが、私が全く何も反応を示さないのを見て、久保さんは無表情で体を起こした。そして恨めしそうな顔でじいっと私の隣りに立っている。
点滴の準備が終わった自分は、今度は物品の用意をするために処置室へ向かった。すると、二、三メートル離れた後ろから、久保さんがゆっくり付いてくるのが分かった。
(ついに付いてくるようになってしまったか)
心の中で盛大にため息をついたが仕方ない。やっぱり無視して手を動かす。
何度か呼ばれた。それが久保さんの声なのか、それともほかの人の声なのか判断してから動かなければならないのは中々のストレスだった。だが私はミスすることなく、彼の呼び声は悉く無視出来た。
それでも向こうは諦めない。私の後ろをついて回りつつ、時折顔を覗き込みながら呼び続ける。
『視えてるのに 視えてるのに 視えてるのに……』
苛立ちを感じる声色が背中に投げられる。
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