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もしかして、諦めて消えてくれた? 家族の元へ帰ったとかだろうか。そうだとすれば、それは一番いい終わりだ。強制的に藍沢先生に消されてしまうより、自分の意志で立ち去ってくれる方がずっといい。死後のことはよくわからないが、これから天国だとか、生まれ変わりだとか、そういう温かな場所へ行ってほしいと思う。
今日散々無視し続けた甲斐があったのかもしれない。私は頬を緩めた。
肩の力を抜き、ゆったりとした動きで点滴の準備に入る。今日の昼食は美味しく食べられそう。そうだ、帰ったら藍沢先生に連絡して伝えておかないと。またパンダのスタンプでも返ってくるだろうか。
手を動かしながらぼんやりと考えていると、ピンポーンとナースコールが鳴り響いた。顔を上げ、そちらを見てみる。
赤いランプが付いている隣にあった氏名は、見覚えがある。本日の私の受け持ちの患者さんだった。
もう八十をとっくに過ぎた高齢のおばあさんで、小柄でニコニコした可愛らしい人だ。何かあったかな、と思い、すぐに取ってみる。
「はい。どうされました?」
声を掛けてみる。
『……』
「どうされましたー?」
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