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私はすぐさま頭上にある緊急コールを鳴らした。普段のナースコールとはまた違う特別なコールだ。これが鳴ると、非常事態だと知らせていることになる。ほかの看護師や医者も駆けつけてくるはずなのだ。
ややうろたえたが、すぐにまず尋ねた。
「喉に詰まりました!?」
苦しみながら彼女はこくこくと頷いた。慌てて背部叩打法を試みる。高齢者の窒息は多い。元々嚥下機能に問題のない患者だったので、出されている食事も固さなどは通常のものなのだ。生憎、まだ入って半年の自分は背部叩打をするのも初めてなので、手が震えていた。
すぐにバタバタと足音が聞こえてくる。応援が駆けつけてくる、と思いつつ必死に処置を続けているとき、視線を感じた。二人きりしかいないはずの病室で、そんなものを感じるはずがなかった。その視線は言葉に表しがたい、冷たい気を纏っていた。
ちらり、と視線だけ動かす。
私の背後から、あの人が首を長く伸ばして覗き込んでいた。まるで私の行っていることを観察するように。私たちをただ無言でじっと見下ろしていた。
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