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私が彼の入院を取ったので、それ以降よく受け持つようになっていた。気のいいおじさん、という感じで、人とのおしゃべりが好きな普通の男性だ。入院してから、彼に面会に訪れた人は見たことがないので、会話相手がおらず寂しいのかもしれない。
私は血圧計を取り出し、話しながら腕に巻き付ける。
「夜は眠れましたか」
「うん、まあまあ」
「よかった。熱も測りましょう」
症状についていくつか質問をする。やや掠れた声で山中さんは返してくれた。一通り質問が終われば、待ってましたとばかりに彼は雑談を始める。こういう話をするのも、仕事のうちなのだ。
彼はとりとめのない話をした。大体が今までの半生についてだった。もしかしたら、予後のことを考え、これまでの人生をよく思い返しているのかもしれない。
最近まで仕事人間で、体調不良に気づいていながらも病院へ行かなかったことを、悲しそうに語った。
「こういう時なあ、家族がいたら違ったかもしれない、と思うんだが……そんなこと言っても今更だよなあ」
「おひとりで暮らされてるんでしたっけ」
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