不穏

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 嫌そうに顔をゆがめた緑川さんについ笑った。こういうちょっとした雑談が、一息つく方法でもある。私は肩の力が抜けるのを自覚しながら、パソコンに視線を戻す。だが同時に、ふと気になり背後を振り返った。  午後も散々後ろにいた久保さんは、いつの間にかいなくなっていた。先ほどまで記録を書く私の後ろにいたはずなのだが、一体なぜ消えたんだろう。  小さく首を傾げる。だがまあ、いなくなってくれたのならいい。私は正面に向き直りキーボードを打ち続ける。  午前中も確か、ずっと付いてきてたはずなのにいなくなったんだよね。私はてっきり諦めたのかと思って内心喜んでいたのに、窒息事件でまた顔を出し始めたんだ。ぬか喜びもいいところだった、結局彼は全く諦めてないのだ。  また突然現れて、私のそばに……くる……。  ふと、手を止めた。  いなくなった。急変が起こった。そしたら現れて嬉しそうに笑いながらまた私に付いた。  ゆっくりと視線を上げ、ナースコール盤の方を見た。患者の名前がずらりと羅列してある。そこで脳裏に、最悪の展開を思い浮かべる。
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