不穏

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 私はすぐさまステーションを出た。午前中の時も返事はなかった。当然だ、窒息している最中なので助けを呼ぶ声すら出る余裕はなかったのだろう。コールを押すだけで必死だったはずだ。脳裏に嫌なことばかりが思い浮かぶ。でも今は食事の時間じゃない。いや、食べ物なんて、家族の差し入れなどでいくらでも手に入れられるではないか。  足を速めながら部屋に向かっていく。またしても個室の部屋だった。私はすぐさまノックを鳴らし、急いで扉を開けた。 「失礼しま」  言いかけた自分の目にまず飛び込んできたのは、扉の目の前に立つ久保さんの姿だった。じっとりとしたなんとも言えぬ目で私を見ていた。そこに久保さんが待ち構えていたことにも驚きだったが、彼の向こう側にあるベッドを見て、私は叫んだ。仕事中叫んだのなんて、初めてだったかもしれない。  ベッドの上にいた患者は、一本の白い紐を首に巻き付けていた。壁に繋がれているナースコールだった。その状態でベッドがギャッジアップされ、首を絞めつけている状態だった。口から涎を垂らし、顔面蒼白になっている彼には意識はなさそうだった。
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