不穏

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 声を上げながら無我夢中で近づき、まずナースコールを引っ抜いた。ナースコールはわずかな力で壁から簡単に外すことが出来るのだ。そしてそれは抜けると、普段とは違った大きな音を鳴らす仕組みになっている。だが、なぜかその時は鳴らなかった。  私は緊急コールを鳴らした。本日二度目だった。患者の方を見てみると、首にコードが食い込んでいる。震える手でそれを必死にほどく。想像以上に強く皮膚に入り込んでいた。  扉がすぐさま開かれ、誰かが飛び込んでくる。藍沢先生だった。彼は患者を見ると驚いたように目を丸くさせた。私は半泣きで先生の顔を見上げる。先輩看護師たちも一気に部屋に入ってきてくれた。先生は見たこともないほど顔を強張らせ、目を吊り上げていた。普段とはまた違う、厳しい表情。 「呼吸、脈は!」  慌ただしく人々が動き始める。ベッドの位置を戻す者、頸動脈の触知をする者、それぞれが無我夢中で働いた。
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