不穏

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 幸い、彼はすぐに自発呼吸を始めた。発見も早かったことと、ナースコールでは強く締めきれなかったことが原因のようだ。とはいえ、あのまま発見が遅れていたら無論命の危機だった。  壁に設置されたナースコールのコードを巻き付け、そのままベッドをギャッジアップし、頸を絞めたようだった。さらには、ボタン側は自分の手で引っ張りさらに強く締めたよう。ナースコールは私がやったように一定の力が加われば壁から抜けるのだが、角度の問題か今回は抜けなかった。そこへ本人の力も加わり、呼吸が止まるほど締め付けられてしまった、ということだ。  おそらく自分で締めている最中、ナースコールのボタンを押してしまったのだろう。だから私に早く発見されたのだ。  それからは勿論バタバタだった。命は助かったとはいえ、病院内で自殺行為が起きてしまった。前後にそれをほのめかす言動がなかったか、周りの環境の配慮はどうだったかなど、受け持ちであった自分は事細かく上司に説明しレポートをまとめなければならず、終わったころには外は真っ暗だった。思い出すも患者に人生を悲観するような言動はなく、他の看護師もそう不思議がっていた。
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