笑わない男

18/38

1750人が本棚に入れています
本棚に追加
/273ページ
「ああ、ずっと一人だよ、寂しいもんだ。一度結婚の話が出たこともあったんだが、周囲に反対されて駄目になってしまった」 「え? どうしてまた?」 「相手が二十以上も年下だったんだよ」  目を細めて山中さんが言った。なるほど、年の差婚というやつだ。状況によっては、相手の親などが反対するパターンもあるかもしれない。  彼は懐かしむように言う。 「思えば、椎名さんはあの子にちょっと似てるんだよなあ。ああ、ごめん、おじさんにこんなこと言われても嫌だよな」 「あは! そんなことないですよ。似てるんですか、私?」 「うん、だから話しやすいもかもしれない。あれは本当に、年甲斐もなく夢中になった恋だった」 「その方とは、それ以降は……?」  小さく首を振る。 「連絡先も分からない。あっちは若いし、きっと今頃新しい相手でもいるだろ」 「でも、山中さんは心残りですか?」  つい聞いてしまった。相手ははは、と乾いた笑顔を漏らした。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1750人が本棚に入れています
本棚に追加