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『まあ、自分で命を断とうとする人間は、普段と変わりない態度だったというパターンは多くある。まだ本人も話せる状態じゃないからなんとも言えないが……』
先生は黙り込む。しばらく沈黙が流れた。私は先生が何を言いたいのかなんとなく感じ取っていた。口に出していいものか、という葛藤があったのだ。
沈黙に耐えられずおずおずと話した。
「今日……朝から久保さんはずっと私の背後を付いて回っていました。でも急変が起こる少し前、姿が見えなくなったんです」
『何?』
「ナースコールを取って訪室したら、いつの間にかまたそばにいました。いや、さっきの時は元から部屋にいたような……」
思い返してみる。そうだ、扉を開けた瞬間、久保さんはそこに立っていた。私より早く患者の部屋にいたことになる。
全身に震えが走る。
「せ、先生。窒息はそりゃ、高齢の方だったから、ありえないことではないです。でも自殺未遂の方は、なんていうか」
『……駄目だ』
「え?」
『自殺は、絶対にダメだ』
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