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私にも届かないような微かな声で、先生はそう呟いた。重みのある苦しそうな声だった。聞いたことのない声色に、私は驚き黙り込んだ。
そういえばあの時、病室に入ってきた藍沢先生はかなり驚いた顔をしていた。いや、あんな現場を見たらだれでも驚くし、普通のことだと思う。でもいつでも冷静な藍沢先生があそこまで表情を変えたのは、現場に驚いただけではないんだろうか。
そう、驚いただけではなく、ひどく恐ろしいものをみるような、怯えたような……。
「先生?」
私の声かけに、彼はすぐに反応した。普段通りの静かな口調で話し出す。
『勿論窒息も自殺未遂もあり得ないことじゃない。そんな事例は山ほどある。
だが二人とも君の受け持ちで、なおかつ同じ日に起こったなんて、出来すぎた偶然だと俺は思う。
そして急変より前、久保さんがそばからいなくなったのも気になる』
「もし最悪のパターンだとして、久保さんは何がしたいんでしょう? やっぱり私の気を引きたいんでしょうか? 私が朝からずっと無視してたから」
『あり得る』
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