不穏

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 あれだけ霊には関わるなと言っていた先生が。一体どうしたのだろう。  私の質問に、淡々と先生の声が続いた。無機質な声色だった。 『本人が思っていることは本人しか分からない。  誰も自分の姿が認識できない中で、視える人間はとても貴重なものだ。  存在を無視せず向き合う。話を聞いてあげる。  君は知らぬ間に死んでしまったことはある? 目が覚めたと思ったら、重かった体が異様に軽く、目の前で家族が泣いていた経験は? 死ぬなんて予想もしてなかったのに体はとっくに寿命を迎えてしまって、気持ちだけが生き残ってしまったことがある? 自分の体が目の前で焼かれて肉は消滅し、ちっぽけな骨になり壺に入れられた時の気持ちがわかる? 痛いも痒いも寒いも暑いもなく無の状態で存在する虚しさを感じたことはある? ないよね? ないよね? ないよね?』  抑揚のない藍沢先生の声は、まるで耳元で直接囁かれているようだった。スマホを握る手は全く動かせず、私はただ耳に当てたまま固まっていた。  壊れたテープのようだった。自分の体に何かが巻き付いたようになり、完全に囚われていた。
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