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一体いつからだろう、先生の言葉が見知らぬ人のものになったのは。
私には散々霊と関わるな、絶対に無視し続けろと言っていた彼とは真逆のことをいうこの人は、一体誰なの?
スマホを手にしたまま、ゆっくりと首だけ動かした。耳にはまだ先生の声が届いている。
しっかり閉めたはずの更衣室の扉が、わずかに開いていた。古い木製の扉だ。ほんの一、二センチほどだろうか。廊下側に戸がゆっくりと動いていく。キイイと不愉快な音が小さく聞こえた。そのおくに見える廊下は、なぜか漆黒の闇が広がっていた。
こげ茶色の扉に、白い何かが出てくる。指だった。こちらの様子を伺うように、数本の指が扉に掛けられていく。耳には先生の声が届くが、何を言っているのかもう理解はできなかった。
私の様子を伺うように、指がさらに扉を開けていく。ゆっくりゆっくりとした速度で。反射的に、戸の向こうを見てはだめだ、と自分が思った。
誰かが入ってこようとしている。
「……わ、たしは、聞きません! あなたの話を聞きません!!」
振り絞った声でそう叫んだ。ぴたり、と扉の動きが止まる。
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