不穏

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 そのまま長く静寂が流れる。永遠のように感じる静けさだ。  白い指は動かない。自分の体も動かない。私はただじっと扉を見ているしかない。誰か来てくれないだろうか、この状況を変えてほしい、誰か助けて。  額にじんわりと汗をかき垂れていく。乾いた唇からは自分の速い呼吸だけが漏れていた。祈る気持ちで白い指を見続ける。  と、その指が突然ふっと引っ込んだ。自分の体は一瞬強張り、だがすぐに力が抜けた。指はもう出てこなかったからだ。  長い長い息をついた。耳に押し当てっぱなしだったスマホをようやく下ろす。全身にぐっしょり汗をかいていた。冷えて寒気を覚えるほど。 「ついてきてたんだ……」  そう呆然と呟き、とりあえず着替えようと思った。なるべくもっと人のいそうな場所に行きたかったのだ。更衣室から出たい。  そういえばさっきの電話って、最初の先生は本物だったんだろうか。全部嘘だったのかな。初めの方は先生っぽかったんだけどな。  ロッカーの鍵を探すため、力なく鞄に手を突っ込む。途端、耳元でささやき声がした。 『いいなあ 生きてて』
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