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スマホ越しに先生の声が聞こえてきていた。戸惑い、すぐに返事が返せない。辺りを見渡し、異常がないことを確認する。大丈夫今は何もいない。鞄の中も覗いてみたが、財布やタオルがくちゃくちゃになって入っているだけだ。
『椎名さん!?』
「あ、の、えっと」
『話の途中で突然叫びだしたから。どうした』
私の声が聞こえてホッとしたように先生が言った。だが私はというと、電話の向こうの相手が信じられず狼狽える。困った挙句、正直に言う。
「せ、先生?」
『なに』
「先生ですよね? 本当に先生ですか?」
縋りつくように尋ねる。あれが夢だったなんて思えない、さすがに私もそこまで単純ではない。あの時、電話の相手は実際どこかで入れ替わっていた。
私の様子に何を察したのか、先生は落ち着いた声で言う。
『大丈夫。ちゃんと俺だから』
「本当ですか? 変わったりしてないですか?」
『またひょっって変な声出そうか?』
突然そんなことを言いだしたので、ぽかんとしたのち、小さく笑ってしまった。肩の力がすっと抜けるのを自覚する。
「それ、逆に先生っぽくない発言です」
『自分でもそう思ってる』
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