不穏

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 声すら出す元気がない。一文字ずつ呟いたあと、今日あった出来事を思い返していた。  窒息に自殺未遂。ロッカーでの久保さん。 「……いいなあ、生きてて、か」  床に頬を押しあてたまま囁く。  これだろうな、久保さんの一番の気持ちって。  若くして、さらに子供や奥さんまで残して病気になった。知らぬ間に死んでしまい、生きることを断たれた。  想像できない苦しみだろう。だって私は健康で生きている。彼とはまるで世界が違う。いや、だからと言ってほかの人間を巻き込むなんてこと一番よくないのだが。 「久保さんの奥さんや健人くん、今何してるかなあ」
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