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「そう、だからね、私やっぱり残酷なことをしてしまったのかなって、そればっかり考えちゃって。あの人は帰ると信じていたのに、裏切った」
「それだけご家族を大事に思っていた方ですから、奥さんの気持ちも分かってくれていますよ。最期まで明るい未来だけを見て眠れたのは奥さんのおかげだと」
私はゆっくりとした口調で述べた。彼女は聞きながらまた泣いている。
そうであってほしい、と私は願っている。日記に家族のことばかり書くような人なら、夫として、父としてとても温かな人なんだと。未告知であったことにきっと不満なんて、持っていないはず。
……持っていないはず。
背中に気配を感じている。私は目の前で泣く奥さんを見つめながら、少しだけ目を閉じた。ひしひしと感じる威圧感。彼は何かを言いたがっている、何かを叫びたがっている。
私は唇を震わせ、強く握りこぶしを作った。
何をしているの、今私の背後になんてついている場合? 泣く奥さんや息子さんのそばにもいずに、あなたは一体何しているの。振り返って叫びだしたい。
奥さんは手のひらで涙をやや乱暴に拭く。
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